新型インプレッサ 難題だった米国で絶対に成功するクルマにしながらも、日本の顧客の需要もよく考慮することをどう実現できたのか

最終更新日:2017/02/27 公開日:

安全と走り 日米の求める機能両立

 富士重工業が昨年10月に全面改良して発売した主力小型車「インプレッサ」の販売が好調だ。新開発のプラットフォーム(車台)を初採用し、衝突時に衝撃を吸収する力や安定性を高めて安心と走りの楽しさを追求。今年1月末までの約3カ月で国内受注は2万4427台に上り、月2500台の販売目標を大きく超える水準で推移している。

成功に導いたのは、市場の要求に対する丁寧な聞き取り調査と、主力市場の米国と日本の求める機能を両立する工夫だった。

 



■世界販売を牽引

「米国で絶対に成功するクルマにしろ。ただ、日本の顧客の需要もよく考慮すること」

吉永泰之社長は開発を始めた2013年、総括するスバル商品企画本部プロジェクトゼネラルマネージャーの阿部一博氏にこう注文した。

同社の16年の世界販売は前年比3%増の101万2000台。うち米国は61万5000台8年連続で過去最高を更新し、初の100万台突破を牽引(けんいん)した。吉永社長は「(現地で)安心・安全のイメージが浸透し、ブランド力が上がっている」と分析する。

新型インプレッサにとっても、米国での成功は「大前提」(阿部氏)。競争力の源泉である安心・安全性能を高める新プラットフォームの採用は開発の柱だった。構成する車体やシャシーに高張力鋼板の採用を広げ、各部の剛性は1.7~2倍に強化した。追突しても従来モデルより1.4倍大きい衝撃エネルギーまで吸収して車内を守る。

重心を低くしたことで、真っ直ぐ走る安定性が増し、振動による騒音を抑えた。同社は運転支援システム「アイサイト」で先行したが、「プラットフォームは安全性能の根幹だ。(他メーカーと比べて)優位性は高い」(吉永社長)。

 ブランドを象徴する安全と走りの追求が進み、阿部氏を最も悩ませたのが吉永社長の注文だ。米国では小型車も車内を広げて車体を大きくする傾向があり、「同じ価格帯の競合車よりも小さいと損をしている」と思われる恐れがあった。

ただ、米国市場を優先して車体を大きくすると、狭い道が多い日本ではすれ違い時の接触や、切り返しづらさにつながる可能性がある。

注文を踏まえ、阿部氏は日本市場の要求を正確に把握するため、東京都や埼玉県の3つの販売店の店員約20人から年2回程度の聞き取り調査を行った。店員から「すれ違いではドアミラーが接触する」などの意見を聞き、「定点観測で開発のヒントを得ていった」(阿部氏)。

結果、米国市場の要求に合わせて車幅は3.5センチ広げたが、左右のドアミラーの幅は形状の工夫で従来モデルと同じ201.9センチに抑えた長さも4.5センチ伸びたが、切り返しやすさの指標になる最小回転半径は5.3メートルと据え置き、日米で相反する要求を両立させた。



歩行者守る装備も

 さらに、日本では交通事故死亡者のうち歩行者や自転車の割合が高いことに注目。追突時にフロントガラス外側にエアバッグを出し、歩行者の頭などを守る装備を国産車で初めて採用した。阿部氏は「日本の需要を高めるもう一つの要素として必要だった」と語る。

新型インプレッサは昨年12月、国内で1年間の最も優れた新車を選ぶ「2016-17 日本カー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。選考委員は「新開発のプラットフォームなどにより質の高い走行性能を持つとともに、歩行者保護エアバッグなど世界トップレベルの安全性能も実現した」と評価した。

阿部氏は「米国市場は台数や収益が大きい。ただ、日本メーカーは国内で輝いていることが人材確保などを考えると重要だ」と話した。(会田聡)

 

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