新型インプレッサ、新プラットフォームのデザインとは?

最終更新日:2020/09/09 公開日:

感覚を数値化してクルマづくりをすると言うと無機質なものができてしまうのではないかと不安を抱く人もいるだろう。だが、完成した5代目インプレッサは、高い評価を得ることができた。なぜそれができたのだろう。

それは“乗らなくても作れる基本部分はしっかり数値で押さえるが、仕上げは人の感覚を大切にし、人が乗ってチューニングする”というやり方に徹したから

SGPでは骨組みなど、基本となるところは徹底して数値化することによって試作車の完成度を高めておき、あとは限られた開発時間の中で世界中を走って、人の感覚で納得がいくまでチューニングして動的質感を磨き上げていった。「限られた開発期間の中で、今までのSUBARUの開発手法の良いところを最大限に発揮するにはどうすればいいかを考えた時、その答えが開発の初期段階で基本部分を徹底的に数値化して試作車の完成度を高めることでした」(沼田)
一般的には数値化したターゲットがクリアできたら完了と考えがちだが、SGPの開発においては、数値化はゴールではなく入口の作業だったのである。
SGPを最初に導入した5代目インプレッサや2代目SUBARU XVのステアリングギヤ比はスポーツカーと同レベルの13:1だ。さらに、剛性を上げるためにレーシングカーのような補剛をしている。
「その狙いは、決してスポーツカーを作りたかったわけではなく、取り回しを良くすることで運転が楽になるようなクルマにしたかったのです。」(藤貫)
これにより、ハンドルを大きく回さなくても、持ち替えなくても交差点を曲がれるから、市街地でも運転しやすくてとても楽になる。しかし、高速走行で応答が敏感になりすぎたり運転がしづらくなったりしては本末転倒だ。
「ステアリングの応答が悪かったり、遊びが大きいのにクイックだったりすると、これはもうとても運転できないクルマになってしまいます。遊びを小さくしていき、クルマ自体の外乱に対する強さを上げていけば、修正すらしなくていいので運転が楽になります。これは、SGPだから実現できたことです。」(新田)

新世代プラットフォームを採用する第1弾として注目

新しいプラットフォームの導入により、比較的コンパクトなインプレッサから「レガシィ」「アウトバック」、北米向けの3列シートSUV(スポーツ多目的車)といった大きな車種まで、スバルが単独で開発するすべての車種に1つの共通したプラットフォームを採用する(トヨタ自動車との共同開発「BRZ」(トヨタ名「86」)は除く)。

そのメカニズムもさることながら、スバルが新型インプレッサで初めて導入する重要なポイントがもう1つあった。

「ダイナミック×ソリッド」と称する新しいデザイン思想

「次期インプレッサから全面的に採用する」(スバルデザイン部の石井守部長)。

もともと、「ダイナミック×ソリッド」は「際立とう2020」と呼ぶ中期経営計画とともに2014年5月に打ち出していた。それに先駆けて、同年3月に開催したジュネーブ・モーターショーで出展したコンセプトカーVIZIV(ヴィジヴ)2の説明でも、ダイナミックとソリッドという2語が使われていた。

そして2015年11月の東京モーターショーでは、新型インプレッサのプロトタイプといえる、「インプレッサ5ドアコンセプト」を世界初公開。

ここでもダイナミック×ソリッドというキーワードが使われていた。新型インプレッサが市販車として初めて、スバルの新しいデザイン思想を全面採用したのは当然だろう。


インプレッサが改革のターニングポイントを務めた

インプレッサがスバル改革のターニングポイントを務めたのは、これが初めてではない。

他車に先駆けてのプラットフォーム一新も、2007年に発表された3代目で、「SI-シャシー」と名付けて実施している。

このときは同時に、1971年発表のレオーネ以来受け継いできたサイドウインドーの窓枠がないサッシュレス方式を止め、窓枠を追加してもいる。

ハッチバックに「スポーツ」、セダンに「G4」というサブネームを与えた2011年デビューの現行型では、パッケージングとデザインでの改革を断行した。その象徴が、フロントピラーの根元を従来に比べて200mm前に出したことだ。

インプレッサはスバル伝統の水平対向4気筒エンジンを縦置きするので、前輪から前の部分(フロントオーバーハング)が長くなりがちだ。ピラーの根元が後方にあると、ノーズが重く感じられる。それを解消すべく、エンジンルームとキャビンの間の隔壁の構造を一新することで、ピラーの根元を前に出した。

フロントマスクもこのとき一新した。六角形の「ヘキサゴングリル」に、鷹の目を連想させる「ホークアイ」ヘッドライトの組み合わせを、他車に先駆けて導入した。

この顔について、現行インプレッサのデザインを担当した中村真一氏は、デビュー時に次のように説明していた。

「水平対向エンジンを積んでいるがゆえの迫力や力感がスバルの財産だと思っているので、グリルを大きく開け、ライトを見開いて、しっかり主張させました。俳優で言えば超二枚目ではなく野武士タイプです」

その後2014年に発表されたステーションワゴン「レヴォーグ」では、水平対向エンジンのシリンダーをイメージして、ヘッドライトやテールライト点灯時に浮き上がる「コの字型シグネチャー」を導入するなど、ヘキサゴングリル+ホークアイはその後も進化を続けている。



ではダイナミック×ソリッドとはどんなデザインか。石井部長は、次のように語った。

『安心と愉しさ』を追求

「スバルが車づくりで追求しているのは『安心と愉しさ』です。これに基づいてデザインでは、ライフスタイルデザイン、ロングライフデザインの2つを目指していきます。

ライフスタイルデザインは、人生をもっと愉しくしてくれる、安心して乗れる車。ロングライフデザインはずっと走っていたいと思わせる車です」

それをカタチにするために、石井部長は「機能」「DNA」「カタチ」の3つの意味があると語った。

視界の良さ

機能については、室内空間の確保や空力性能の向上など、多くの車が追求する部分だが、その中でスバルが最初に掲げているのが視界のよさ。視界を機能の最初に掲げるブランドはあまりない。確かに最近のスバル各車に乗り込むと、インパネが低く、目の前の視界が開けていて、安心して運転できそうだと感じる。

DNA

次に掲げたDNAは、中島飛行機という航空機メーカー出身ならではの合理的思考やチャレンジスピリットなどを挙げていた。こうした思想があったからこそ、スバル360やスバル1000、レオーネ4WD、レガシィなど革新的なデザインをいくつも世に問うてくることができたのだろう。

カタチ

そして最後に、情緒的価値としてのカタチを出した。

 

この3つの意味から定められた方向性がダイナミック×ソリッド

ダイナミックは躍動感であり、愉しさを表す。一方のソリッドは塊感であり、安心感を表現するキーワードだとしている。

石井部長のプレゼンテーションを聞いて、ほかの多くの自動車ブランドとの違いが「ソリッド=塊感」にあると感じた。ダイナミックやエモーションなどは多くのブランドが使用しており、いまや食傷気味でさえある。ソリッドというキーワードの起用で、スバルらしさが高まっている。

スバルのルーツである飛行機は、安心安全がもっとも重要な機械である。その思想が視界のよさやアイサイトにつながっているのだろう。しかも空を飛ぶから、軽くて空気抵抗の少ない合理的な造形が求められる。塊感に結実することもまた自然の成り行きだ。

スバルのダイナミックとは、機械を作っている

そしてダイナミックの解釈も、スバルはやや変わっている。説明の後半で石井氏は、「ダイナミックというと動物的なモチーフを使うことが多いですが、われわれは機械を作っていると考えています」と述べた。

ニューヨーク国際オートショーで世界初公開された次期型インプレッサのフォルムは、確かに動物的なしなやかさより、鉄や石の塊を削り出して造形したような、硬質な雰囲気を感じる。ソリッドな塊と躍動的なラインの融合に、やや粗削りな部分も見られるが、それもまた野武士らしさと評すべきかもしれない。

2017年は中島飛行機創立100周年。記念すべき年へ向けて、ダイナミック×ソリッドはさらに洗練を深めていきそうだ。

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