どうして米国で“絶好調”のスバルなのか – スバルがその地位を確立できた理由

最終更新日:2017/08/18 公開日:

広大な米国、自動車が走行するシーンも様々

5年前には年間65万台規模の自動車メーカーであった富士重工業(スバル)が、100万台規模へ手が届きそうな急成長ぶりである。2015年度の売上高は、4期前の実績と比べれば2倍以上となる3兆2,000億円を突破。その成長を担うのは、5年間で2倍に販売台数を伸ばした米国市場である。なぜスバルは米国で人気を拡大できたのだろうか。

米国の国土は、日本の約25倍も広い。

そして、中西部にはロッキー山脈が縦断し、コロラド州にあるその最高点、エルバート山は標高4,000mを超える。そのコロラド州では、パイクス・ピーク・ヒルクライムといって、標高2,800mのスタート地点から富士山より高い頂上まで、一気に1,400m以上の高低差を駈け登る自動車のタイムトライアルが、1916年から独立記念日の7月に毎年開かれている。

人口はというと、米国は3億人強で、日本は1億3,000万人を割っている。これらの結果、人口密度は平均で、米国が1平方キロメートルあたり0.3人、日本は同3人となり、米国に比べ1平方キロメートルあたり10倍の人が日本では密集して住んでいる計算になる。

スバルの話をするために、なぜこのような地理や人口の話をするのかというと、これが北米でのスバル販売好調の理由の一つと考えられるからだ。

アウトバック

アウトバック

吉永社長

路面状況の変化が多い米国で受けるのはどんなクルマか

米国本土では、それほど広い土地に、人はまばらに住んでいる。もちろん、都市部は人口が密集するが、米国の100万人都市というと9つしかなく、日本の11都市と比べて少ない。ニューヨークが800万人で東京の区部とほぼ同じだが、ロサンゼルスは380万人ほどで、あとの都市は多くが百数十万程度の規模でしかない。

最大のニューヨークも、マンハッタンを抜けて30分も移動すれば、郊外の高級住宅地となり、ゴルフ場の敷地の奥に高級住宅が並ぶといった閑静さが得られる。

一方の日本では、東京を抜けても東は97万人の千葉市、北へ行けば128万人のさいたま市、西へ向かえば370万人の横浜市というように、どちらへ行っても市街地の途切れることのない状態が続く。

それだけ広大な米国内での移動は、飛行機が主体だ。そして、空港までは自動車で行き、そこから飛行機で移動し、到着した町でレンタカーを借りて目的地へ向かう。その繰り返しである。遠出の足が飛行機主体とはいえ、その先は自動車しかほぼ移動手段はなく、公共交通機関といってもバスくらいだ。鉄道や地下鉄が整備されている町は、ほとんどない。

したがって、ある程度飛行機で移動したあとは自動車が頼りだ。しかも、広大な土地に、まばらにしか人が居ないほどの人口密度であるから、道路は縦横に整備されていても、道路脇は土漠や荒野が広がる。それは決して大げさな話ではない。

米国では舗装された道を走ったあと、未舗装路に足を踏み入れることが日常的にあり得るのである。もちろん、本格的4輪駆動車でないと走れないような悪路ではないにしても、舗装路と未舗装路の行き来は珍しいことではない。

また、年中快適な気温と好天に恵まれるロサンゼルスに住んでいても、自動車で2時間ほど走ればスキーのできるリゾート地へ行ける。

前置きがずいぶん長くなったが、以上の様なわけで、自動車での移動中に、未舗装路や雪道へ走り込む機会は、米国では身近に存在する。したがって、米国で販売される自動車のタイヤは、オールシーズンタイヤといって、少々の降雪であればそのまま走行できなくはない種類が装着されている。

それほど路面状況に変化が多い米国だからこそ、4輪駆動の自動車がもたらす安心感は高く評価される。そこに、スバルの4輪駆動車がまさに適合した。

4輪駆動化への取り組みが奏功

スバルは、1958年に軽自動車の「スバル360」で自動車づくりに乗り出し、1966年には小型車の「スバル1000」を生み出す。その後継が1971年の「レオーネ」である。そして翌1972年には、レオーネのバンに4輪駆動車を設定した。40年以上前の話だ。道なき悪路を走破するためのジープのような4輪駆動車ではなく、市街地を普通に走る自動車の4輪駆動化にいち早くスバルは着手していた。

レオーネ

 

舗装路を走る、いわゆるオンロード4輪駆動は、1980年に登場したドイツの「アウディ・クワトロ」からとの認識が高いが、スバルはそれより先に乗用車での4輪駆動車を生み出している。ただし、その4輪駆動は、2輪駆動と4輪駆動を運転者自らの手で切り替えて使うパートタイム方式であったため、誰でも簡単に使える機構というより、降雪地帯などで重宝する4輪駆動だったといえるだろう。

対してアウディ・クワトロは、常に4輪駆動でありながら、日常の使い勝手にも優れるフルタイム方式を導入し、アウトバーンを高速で安定して走れる4輪駆動車という価値を強く主張した。レオーネも、1986年にフルタイム方式を導入している。

以後、フルタイム4輪駆動は、レオーネの後継となる「レガシィ」、1992年に新登場となった「インプレッサ」などほかの車種へも広く展開された。

米国市場開拓の旗頭「レガシィアウトバック」が登場

1989年に、レオーネの後継としてレガシィが誕生したときから、スバルはステーションワゴンをツーリングワゴンと呼び、そのうえ「リゾートエクスプレス」と価値づけて、スキーやキャンプなどのレジャーに出かける際に、4輪駆動で安心して、また乗用車として快適に移動できる特徴を打ち出した。これが大人気となる。

2世代目のレガシィでは、ツーリングワゴンの車高を少し高め、道路と車体の間にゆとりをもたせた「グランドワゴン」(輸出名では当初よりアウトバック)という車種を1995年に追加している。これが、今日に至るアウトバックである。これはまさに、冒頭で述べた未舗装路を走ることも視野に入れた米国市場を意識した車種追加であった。

 

グランドワゴン

アウディにも、車高を上げた「オールロードクワトロ」という車種が1999年に、2世代目の「A6」に車種追加される。レガシィのアウトバックを意識したのではないかと思われる。今日では、「A4」にもオールロードクワトロが車種追加されているが、日本国内の価格で比較しても、A4オールロードクワトロの価格は、レガシィアウトバックの2倍近くする。

ドイツでは、速度無制限のアウトバーンを200km/hで走行できる性能を持つことが前提となるが、米国内のフリーウェイの速度は、日本の高速道路とほぼ同じだから、そのような道路環境でアウディほどの性能は必要ない。スバルで十分だ。しかも、乗用車の4輪駆動としての走破性に不足はない。

レガシィアウトバックは、米国人にとってまさしく最適なバリュー・フォー・マネーな、あるいはアフォーダブル(手ごろな価格)な乗用4輪駆動車なのである。しかも、ほかの選択肢は、ボルボの「クロスカントリー」の4輪駆動車くらいだろうか。それも、レガシィアウトバックより高価だ。

人事からも読み取れる米国市場開拓への想い

そのうえで、2003年の4世代目レガシィ以降は、米国市場を視野に車体を大型化し、2009年の5世代目では更なる大型化により米国向けにしていった。そして、2014年の6世代目ではついに国内には大きすぎる車体寸法となるなど、米国重視の開発が顕著なこの十数年である。国内向けとしては、代わりに「レヴォーグ」という新しいステーションワゴンを誕生させるに至っている。

また、5世代目レガシィを2009年に開発し終えたゼネラルマネージャーが、異動でスバル・オブ・アメリカの会長兼社長に就任し、自身が米国市場の実情をつぶさにみながら販売促進を行った。こうした人事も、米国でスバルの4輪駆動車を拡販する大きな力になったはずだ。

アウトバック2

だが考えてみれば、これこそ“ものづくり”の本来の姿ではないだろうか。スバルの社員は、よく「うちは小さな会社だから、何でもやらなければならない」と口にするが、開発した新車が、単に作り手の自己満足に終わるのではなく、開発者が顧客と直接顔を合わせながら販売し、使って喜んでいる姿を確かめてはじめて、ものづくりが完結したことになるはずだ。これは自動車に限らず、どのようなものづくりにも当てはまる本質だと思う。

5世代目レガシィを開発したゼネラルマネージャーが米国に着任した2011年以降、スバルの販売台数は米国で着実に伸び続け、2011年度比で2015年度は2倍に膨れ上がっている。これにはレガシィアウトバックだけでなく、一回り小型のインプレッサを基に、アウトバック同様に車高を高めた「SUBARU XV」(北米ではクロストレックの車名で販売)の投入も効いているはずだ。

「米国は着想次第でまだまだ開拓の余地がある市場だ。また、日本人が創意工夫した新たな価値に好奇心をもって接してくれる、開拓者精神に富む米国人は、これまでも、そして今後も有り難いお客様」

日本の自動車メーカーにとって、米国は引き続き魅力あふれる市場であり、開拓の余地はなお残っている。

対して欧州での日本車は、いまなお苦戦が続く。背景にあるのは、ドイツのアウトバーンと、欧州各地の一般道の速度域が時速80キロメートル前後と高いことにある。日本と米国の交通環境に慣れ親しんだ日本の自動車メーカーは、単に速度無制限のアウトバーンに限らず、日常的に走行速度の高い欧州で通用する性能や商品価値にたどり着けないでいる。

その点、米国は着想次第でまだまだ開拓の余地がある市場だ。また、日本人が創意工夫した新たな価値に好奇心をもって接してくれる、開拓者精神に富む米国人は、これまでも、そして今後も有り難いお客様なのである。


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