日本カー・オブ・ザ・イヤー受賞 新型インプレッサ
2016年12月9日、その年の「年クルマ」を選出する「日本カー・オブ・ザ・イヤー(略称:COTY:Car of the Year Japan)2016-2017」の最終選考会が行なわれ、スバル「新型インプレッサ スポーツ/G4」が日本カー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。
59人のCOTY選考委員による配点の最終結果が下記である。
採点を見ると、新型インプレッサとプリウスの一騎打ちだった事が分かるだろう。余談だが13年前にスバルがCOTY初受賞となった4代目レガシィと争ったのは2代目プリウス…、ある意味「因縁の対決」だった。
ちなみにインプレッサとプリウスは、どちらも「Cセグメントモデル」「メーカーを代表する基幹モデル」「次世代を牽引するプラットフォームを初採用」と、まさにガチンコ勝負であったが、なぜインプレッサがプリウスに勝ったのか。もちろん選考委員それぞれに思うところはあるだろうが、筆者はこのように考えている。
今回、筆者はインプレッサに10点を入れたが、正直言うと最後の最後までプリウスと悩んだ。インプレッサはクラス最大の強敵であるVW(フォルクスワーゲン)「ゴルフ」と直球勝負が挑める「スバル・グローバル・プラットフォーム(SGP)」のポテンシャルの高さやスバルが最も苦手としてきた内外装を刷新。そして、これまでも定評のあった安全性能に磨きを掛けると共に、「アイサイトバージョン3/歩行エアバック」の全車標準装備など評価すべきポイントはたくさんある。
筆者がインプレッサを選んだ最後の決め手は、インプレッサの開発責任者である阿部一博PGMの一言だった。筆者はインプレッサの試乗後に「阿部さん、この走りと内外装の刷新はスバルのモデルのヒエラルキーを変えてしまいますが大丈夫?」と聞いた。
通常、自動車は走りやメカニズム、質感、デザインなどは、上級モデルほどレベルが高いのが定説だ。ところが、インプレッサはスバルの中で最もベーシックで価格も安いのに、「レガシィ」をはじめとする上級モデルを越えてしまっている。つまりラインナップの下克上が起きているのではというのが、筆者が阿部氏に投げかけた質問の意図だ。
阿部氏は自信を持って「このクルマは単なる『インプレッサのフルモデルチェンジ』ではなく『新たなスバルの基礎を作る事』も使命です。そのためにはヒエラルキーが一時的に崩れても仕方ないと言う判断でした。ベーシックモデルのクオリティが上がれば、上のクラスのハードルも上がるはずです」。つまり「スバルのフルモデルチェンジ」、そこに筆者は共感した。
ちなみに新型インプレッサの開発当初は、従来モデルも販売好調なことから、社内からは「そこまで変える必要があるのか?」「現行モデルベースの改良版でいいじゃないか」とSGP採用に対して反対意見も多かったと聞く。それでも開発チームはいばらの道を選んだ。その苦労は並大抵ではなかったと思うが、スバルブランドを高みに上げる…と言う意味では、正しい決断だったと思う。
ただ、SGPは突然変異ではないということだ。スバルは目指すゴールは分かっていたものの、従来のプラットフォームであるSIシャシーではできない、もしくは実現できたとしても重量や効率上の無駄があることもわかっていた。そこで全てを一新させ、全てを盛り込んだのがSGP。今できる理想を実現させた…ということである。
ブランドに頼るのではなく技術で勝負
あるスバルのOBはこんな事も語っている。「今までのスバルは『ターボ』『ビルシュタイン』『ブレンボ』などを搭載することで、『凄いね、このクルマ!!』と言わせていた部分もあったと思いますが、それらがなくても“いいクルマ”と評価してもらうには本質が求められます。ブランド物に頼るのではなく『技術』でいいね…と思わせる。エンジニアの苦労は大変だと思いますが、やりがいは凄くあると思います」。
もともとスバルのエンジニアは真面目で、例えニューモデルの試乗会の席であっても、「まだまだ頑張らなければいけない」、「もっとよくなるはず」などとハッキリ口にするエンジニアが多かった。しかし、WRCから撤退する頃から「アイサイト」のアピールに熱心で、本来のコア技術である、「走り」に関しては声高らかにアピールせず、「どうしたスバル? お前も大企業病なのか?」と心配な時期もあったが、次の展開のための「エース=SGP」をシッカリと用意していたのである。
新型インプレッサのエンジニアに話を聞くと、昔のスバルにあった「現状で満足しない」と言う、昔のスバルのエンジニアと同じ匂いを感じた。そんな「エンジニア魂」が新型インプレッサで形になったことが、今回の評価に繋がったと思っている。
もちろんインプレッサに死角はないか…と言うと、課題もある。例えば、独自技術の一つの水平対向エンジンは、実用域のパフォーマンスやフィーリング、実用燃費は確実にアップしている半面、水平対向ならではの独自性が薄れてしまっている。むしろポルシェ718に搭載された水平対向4気筒のほうが、スバルっぽいと感じてしまうくらい。
トランスミッションのリニアトロニックもCVTの中では頑張っているものの、DCTやATと比べるとネガな部分も否めない。更にナビゲーションなどのインフォテイメント機能など細かい部分にも改良の余地がある。そんなことはスバル自身がいちばんわかっているはずだ。阿部PGMに受賞後に話を聞くと、「期待に応えること、それがこれからの私の仕事です」と語っている。