吉永社長に訊く:富士重工「スバル車爆売れ」なのに増産に踏み出さないワケ・・・1
・吉永社長:「SNSでユーザーと新たな関係構築」>>
カー好業績が相次ぐ自動車大手の中でも、「スバル」ブランドの富士重工業が絶好調だ。主力の北米では需要に生産が追いつかず、現地ディーラーからクレームが入るほど。かといって、生産能力の大幅増強に踏み込む気配はない。「1台足りないくらいがちょうどいい」(吉永泰之社長)という富士重の戦略をひもといてみると…。
「ヘルメットを持ってきた方がいい。きっとボカスカたたかれるから」
今年5月に北米のディーラー大会に参加する前、吉永氏は現地の担当者から冗談交じりに忠告を受けたという。北米では昨年発売したスポーツ用多目的車「アウトバック」や「レガシィ」が人気で、日本からの輸出を含めても受注に供給が追いつかない状態が続いているためだ。
足りなすぎて従業員の車を展示…
現地では販売店に展示した実車を購入するケースが中心だが、あまりの受注増で展示される前に顧客に納車しているため、販売店に並べる車両がない状態だ。苦肉の策として、従業員の車を展示している店もあるという。
その結果、北米での販売台数は2014年度が約57万台で、20年度の目標としていた60万台を15年度にも達成する勢いだ。増加する需要に応じて、北米の生産能力増強計画を4年前倒しし、16年末に20万台増の39万4000台に引き上げることも発表している。
それでも、日本を含めた生産能力は操業時間の延長を含めても約120万台。20年度に110万台超としていた世界販売台数も前倒しで達成する可能性が高く、再び需要過多に陥る危険性もある。
「車があればもっと売れる」と強気の姿勢を崩さない吉永氏だが、生産能力の増強には慎重だ。
・「米誌飾ったトラウマ」
吉永氏には苦い経験がある。1990年3月、米自動車専門誌「オートモーティブ・ニュース」の表紙に、富士重の現地生産拠点の写真が掲載された。プラザ合意による円高で日本車の販売が激減し、行き場を失った1万台を超える新車が並ぶ工場の様子が空撮されたのだ。
「いい時ばかりではない。(販売が落ち込んだときの)怖さはよく分かっている」と吉永氏は言う。
>>次のページへ
・吉永社長:「SNSでユーザーと新たな関係構築」>>