吉永社長に訊く:「軽から撤退」も販売台数を5年で1.7倍にしたスバル、吉永社長が語る「生き残り戦略」

最終更新日:2017/07/25 公開日:

2017年4月1日、富士重工業はSUBARU(スバル)に社名変更をした。車の量産メーカーとしては小規模なスバルだが、ここ数年、業績は好調だ。2016年度は世界販売台数も100万台を突破し、売上高は3.3兆円を記録している。決してシェアが高いわけではないスバルが、なぜ伸び続けられるのか。代表取締役社長 吉永 泰之氏が、新社名「SUBARU」に込めた意味と、これから自動車産業で生き残っていくための戦略を語った。

執筆:フリーライター 中村 仁美

photoSUBARU(スバル)
代表取締役社長
吉永 泰之氏
世界販売台数は5年で1.7倍、「いろいろな戦いをしてきた」

国内最小の自動車量産メーカーSUBASRU(スバル)。2011年の販売台数は64万台だったが、2016年に100万台を突破。売上高も過去最高の3.3兆円となり、営業利益は4108億円と5期ぶりにマイナスとなったものの、業績は好調だ。だが、そこにいたるまでに「ここ数年、いろいろな戦いをしてきました」と、ADVERTISING WEEK ASIAの基調講演に立ったスバル 代表取締役社長の吉永 泰之氏は語る。

スバルが設立されたのは今から約100年前。当時の社名「中島飛行機」からもわかるように、飛行機会社としてのスタートだった。戦後、会社が解体され、6社が集まって富士重工業となり、飛行機、自動車、産業機器など多角経営を展開していった。

日本国内では「自動車産業は成熟産業」というイメージがあるが、グローバルに目を向けると成長産業だ。吉永氏は「2015年のグローバルでの販売台数は約9000万台。201x年には車は1億台売れると言われています。中国やアジア、中南米などの新興国では販売台数が急激に伸びているのです」と語る。



しかし、スバルにとっては厳しい状況もある。というのも、売れ筋の車種はコンパクトカーだからだ。大手自動車メーカーは新興国に生産拠点を設けて、販売車台数の競争を繰り広げることができるが、スバルは販売台数が伸びているとはいえ、その台数は100万台にすぎない。

「世界シェアでいうと1%。量産メーカーでは規模が最も小さいため、経営資源も限られています。そんな私たちが、量で勝敗を決する戦いはできません」(吉永氏)

では、スバルは何で競争すべきなのか。吉永氏は社長になる少し前から、その議論を深めていた。得られた答えは「個性を活かす」「強みを伸ばす」ことだ。では改めてスバルの個性、強みとは何なのか。それを考えることが重要だったと、吉永氏は振り返る。

自社の「個性」と「強み」を考えて、事業を自動車と飛行機に絞る

スバルはこれまで60年間、車を製造してきた。弱小ながらも潰れずに今にいたっているのは、消費者の支持があったからだ。「歴史を翻って我々は何者なのかを考えていくと同時に、『選択と集中』『差別化』『付加価値』という3つの戦略を同時並行的に進めました」と吉永氏は語る。

第一の戦略である選択と集中では、「事業の集中」「クルマの中での集中」「技術の集中」の3つを実現した。

「事業の集中」では、自動車事業と飛行機事業の2つに絞った。「塵芥収集事業や風力発電事業は、2011年6月の社長に就任してその日の夕方に譲渡を決意し、年末には譲渡しました」と吉永氏は語る。また、産業機器事業についても、今年の9月には撤退するという。

ただし、「事業を辞めても従業員は解雇していません」と吉永氏は続ける。これらの事業に携わった社員は全員、自動車事業で吸収した。また飛行機事業については、「飛行機は最先端の技術。日本の将来にとって不可欠だから残しました」と説明する。

軽自動車の開発生産から撤退し、普通自動車に集中

「クルマの中での集中」は、経営資源の乏しいスバルならではの戦略だ。今でこそスバルというとレヴォーグ、レガシー、フォレスター、インプレッサなどの普通自動車のイメージがあるが、もともとは軽自動車から始まった会社だ。

しかし吉永氏は、数年前に「価格で勝敗を決するところでの戦いはしない」と決断し、軽自動車の開発生産から撤退した。ただし、国内の販売網を守るため、ダイハツのOEMによって販売は継続している。もちろん、この決断をするための調整は「死ぬほど大変でした」と吉永氏。

しかし、この選択によって技術陣は新しい車の開発に集中できるようになった。フルモデルチェンジした「SUBARU XV」は売れ行き好調だ。また自社だけでは難しかったスポーツカーも、トヨタ自動車と共同開発することで実現した。「これまでインプレッサのフルモデルチェンジには7年かかりましたが、今は4年に短縮できました」と吉永氏は評価する。

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