顧客データ統合と活用2
テレビCMの広告評価にデータを活用
続いて、安室氏はSUBARUが取り組んだデータ活用事例としてテレビCMの取り組みを挙げた。「これまではテレビCMの投資効果を聞かれても、実際はよくわからなかった」と安室氏。2020年に、SUBARUではテレビCMの広告評価のために自社でデータ基盤を構築し、広告効果を可視化できるようにした。1分単位でアクセス状況がわかるWebログを持っていることで、テレビCMが流れた直後にWebサイトがスパイクする様子が手に取るようにわかるようになったのだ。
CMが流れた日時や視聴率については業者からデータを購入し、社内の担当部署が管理するCM発注情報と照らし合わせ、顧客が見たCMや購入時期などのデータを踏まえて1件あたりの単価を出しているという。テレビCMやWeb検索による成約への影響、およびコスト効率を測れるようになったのだ。
特に安室氏が現職に就いた2023年4月以降は、テレビCM投入後の自社サイトへの流入数が大幅に向上。1GRP(延べ視聴率:世帯視聴率×CM本数)あたりの指名検索数が、前年比で14.5倍に伸びた。
「人によって意見の分かれるテレビCMのクリエイティブの効果が可視化できました。データ活用のコストで見ると、最もインパクトが大きい取り組みです」「同じ広告費でも検索数が伸びると、1検索あたりのリフト単価で見た時に半額になります。広告投資の効果が2倍になっているなど、社内での説明もスムーズになりました」と安室氏は続けた。
株式会社SUBARU 国内営業本部 マーケティング推進部 宣伝課 課長
兼 ビジネスイノベーション部 カスタマーエクスペリエンスグループ主査 安室敦史氏
紙で取っていたリード情報をデータ化し、イベントを定量的に評価
他の車メーカーと比べて店舗数が少ないSUBARUは、試乗会イベントなどを通じて顧客が車に触れる機会作りに注力している。一方で、イベント会場でディーラーが集めた紙のアンケートから得たリード情報をうまく活用できていなかったという課題も存在していた。
これまで紙のアンケートを手作業で集計しリストを作っていたが、過去データの蓄積がなく優先順位がわからなかった。その上メーカー側は顧客情報を得られず、イベントの効果を見積もりや成約数で定量的に評価することができないでいた。
そこで、顧客に2次元コードから必要な情報を入力してもらう形でアンケートのデータ化に取り組んだ。これにより集計が自動化され、メーカー側も情報を得られるように。データ化によりイベント後の行動ログを取ることができるため、顧客の見込み度を設定し、イベント後に頻繁にWebサイトを閲覧している人から優先的にアプローチする形を取った。
その後の成約まで追うことができるため、成約につながった要因を評価することも可能だ。結果、過去の購買データからリードを集めた時に、購買した顧客に近い行動をしている人が見えるようになったという。実際に見込み度最高ランクのAをつけた顧客のうち72.7%が成約に至ったといい、「アプローチする順番を変えただけだが、購入確率が高そうだと思えば従業員の働くモチベーションにもつながる」と安室氏は語った。
CMの思い切った方向転換で成果につなげた、ブランドイメージ向上策
セッションで安室氏は、SUBARUの顧客理解とブランドイメージ向上の取り組みも紹介した。9segs(※)を活用したブランドイメージ調査を行ったところ、ブランド選好の積極・消極層の間に明らかな差があることが判明した。
※9segs:市場全体の顧客を9つのセグメントにわけて分析する、顧客起点マーケティングのフレームワーク
積極層がSUBARUを評価する理由として挙げたのは「安全性」に関連したものが多い一方、消極層はSUBARUの安全性能に関するイメージを持っていなかった。男性からは「速くてかっこいい」との評価が多いSUBARUだが、女性には極端にいえば「走り屋が乗っていて、子供ができてから乗る車ではない」というイメージを持たれていた。
3つのカメラとレーダーが障害物を認識してブレーキ制御を自動で行う「アイサイト」を搭載するSUBARU車は、追突時事故発生率が0.06%に減少。死亡・重傷事故件数も国内のカーメーカーの平均を大きく下回る。しかし実際は、SUBARU車の安全性の高さが伝わっていなかったのだ。
そこでSUBARUでは、安全なブランドイメージの浸透を図るべく、2023年の4月から安全性の高さに集中したCMでのアプローチを開始。「SUBARUが安全だと認識している方ほど次も買いたいとの評価をいただいているため、新規獲得にもリテンションにも効く施策だと考えた」と安室氏は話した。
子供を守りたい母親の目線で作った「インプレッサ」の新CMは、2023年4月の「ノバセル トレンド Free」のデータによると、全業界の中でCMの指名検索スコア3位となった。公式Webサイトも改善し、車に詳しくなくても理解しやすいよう動画を活用。動画を埋め込んだページの閲覧数は多く、直帰率が40%から27%に減り、ページ最下部到達率も15%から39%に伸びた。
「お客様を一番理解しているのは現場のセールス」という安室氏は、現場へのヒアリングも欠かさない。そこから得た気づきを生かして、積雪エリアに限ったCMなどの施策に活かし、検索数の上昇につながった事例も生まれた。
安室氏は「結果が見えることで、社内が自発的にお客様志向に変わってきた。戦略の立案から実行につなげられることが、データ活用の一番のメリットです」とセッションを締めくくった。