スバルが実践したデジタルシフトを成功させるための3つのポイント

最終更新日:2024/08/17 公開日:

現場ではデータを活用したい、そのためにツールを導入したいと思っても、上司の説得が進まず予算が下りないという苦労をしているマーケターは少なくない。SUBARUの安室氏は、それをどのように解決したのか。

「デジタルマーケターズサミット2017」の基調講演では、「創業100年の老舗企業SUBARUが、ボトムアップでデジタルシフトを果たした3つの方法」と題して、デジタルシフトを進めるために絶対に欠かせないポイントや周りを巻き込むコツについて紹介した。

なお、イベント開催時、SUBARUの社名は富士重工業株式会社であったが、4月1日付で「株式会社SUBARU」に社名変更したので、ここではSUBARUと表記する。

 

・小さいチームがボトムアップでデジタルシフトを進めるには

SUBARUは、自動車のスバルだけでなく航空機関連の事業も展開している。そもそも、ルーツが中島飛行機という疾風などの飛行機を製造した会社だ。技術者には安全性を重視するDNAが組み込まれているという。

業績は順調に伸びているが国内シェアは5%程度と、自動車業界では決して大きな会社ではない。また、デジタル担当は安室氏ともう一人(しかも他チームと兼務)だけで、実質1.5人の超小規模なチームである。デジタルをトップダウンで進めるという文化もない。SUBARUのデジタルに関する取り組みはまだまだ発展途上である。とした上で安室氏は、次のように言う。

小さいチームがボトムアップでデジタルシフトを進めるためには、絶対に欠かせないポイントが3つある

ポイント1上位レイヤーの組織課題解決手段であること

ひとつめとして挙げたのは、「上位レイヤーの組織課題を解決する手段としてのデジタルであること」だ。

「戦略のカスケードダウン」という言葉がある。『USJを劇的に変えた、たったひとつの考え方』という森岡毅氏の著書にわかりやすい図が示されているので引用するが、カスケードダウンとは、戦略が組織の上方から末端まで下方展開される様である。上位の戦略・戦術が下位の目的になって連なっているので、個人の目標達成が最終的に会社の業績に繋がる。




SUBARUの場合で言えば、2014年5月策定の中期経営ビジョンで2020年のありたい姿とした「大きくはないが強い特徴を持ち質の高い企業」が、全社レベルの目的だ。次のレベルである国内営業本部の目的は具体的な販売目標で、そのための戦略として「データ活用」が入ってくれば、課・個人のレベルでアプリやDMP・CRMといった具体的なツールを目的とすることができる。

つまり、単にやってみたいからというのではなく、デジタルツールを導入することが最終的に会社の課題を解決するという流れになっている必要があるということだ。そうでなければ、上司からのOKは出ない。

また、安室氏は次のように言う。

指示待ちではなく、自分起点で周囲を説得し倒し、人を動かしてこそマーケター

安室氏がさかんにデジタルの話をしていたら、国内営業本部の17年度方針策定に呼んでもらえるようになった。そこで話をした結果、17年度方針には「データ活用」とか「DMP」という言葉が並んだ。こうなれば、営業本部配下の100人ほどがデジタルで何をしようかと考えるようになる。それでこそ、やりがいがあるという。

ポイント2わかりやすく説明すること

ふたつめとして挙げたのは、「わかりやすく説明すること」だ。

データ活用は、ひとりではできない。上位レイヤーの戦略立案に関与するためには、周りに理解者・協力者を作ることが重要だ。そこで、上司や他部門を巻き込むために、わかりやすく伝える必要がある。具体的には、次のような方法が効果的だ。

1. 社内勉強会

他部門の同僚などを巻き込むためには、社内勉強会を開催する。このとき、あまり細部に入り込んだ難しい内容はNGだ。安室氏の場合、アクセス解析ツールAdobe Analyticsの具体的な操作説明会を開いてみたことがあったのだが、この内容に興味を持った人はほとんどいなかった。

一方で、オウンドメディアのヒートマップの説明は効果があった。

 

なぜなら、ヒートマップは見て面白いからだ。マーケティングチームとして製品サイトでサイト課題の切り出しや改修などPDCAを回していたが、知見がたまったところで広報や人事など他部署のサイトにも横展開できた。

  • ヒートマップのように誰でもわかりやすく、面白がってもらえるところからスタートする

2. 社外セミナー

他部門や上司を巻き込むには社外セミナーを活用する。社外セミナーは自分だけが受けて、レポートを社内で共有しているというケースもあるだろう。しかし、苦労して作ったレポートも、読むだけではあまり響かない。読むよりも話を直接聞く方が体験としては強いので、巻き込みたい人と一緒にセミナーに参加するのがお勧めだ。とくに上司の場合、泊まりがけのオフサイトミーティング(社外会議)で、じっくり話し合うと効果が高い。

[コツ]
  • 巻き込みたい人と一緒に参加する

3. デジタルを知らなくてもわかりやすい資料を作る

最終的には役員の説得が必要になる。しかし、たいていの役員はデジタルには詳しくないので、デジタルの専門用語で話しても理解してもらえないことを肝に銘じる。役員の説得に限らず、たとえばディーラー相手でも顧客相手でも、とにかく「相手が理解できる言葉で説明する」ことが、マーケターには不可欠だ。

混乱を避けるためには、初めからビッグピクチャーでは説明せず、「売上が増える」など相手に最も響く内容で説明する。また、難しい用語は、たとえ話で、なんとなくでもイメージしてもらえるように工夫する。

[コツ]
  • ポイントを絞って説明(全部は無理)
  • たとえ話など極力わかりやすく

ポイント3成果を出し周囲にPRすること

3つめとして挙げたのは、「成果を出し周囲にPRすること」だ。

マーケターは結果がすべてなので、当然ながら成果をあげなければいけない。しかし、自分たちだけで成果を確かめ合っても、いいことはない。成果をあげているなら、どんどん周りにPRすることだ。PRすることで、周囲の協力を得ることができる。




安室氏は、成果を示した資料を作って毎週の部長会に出している。この時、外部の調査会社などのレポートを利用するとわかりやすい。たとえば、トライベック・ブランド戦略研究所が「主要企業WEBユーザビリティランキング」を出しているが、安室氏が担当して以降、自動車業界のNo.1を3年連続で達成し続けている。

このようなランキングは、成果が出ていると誰にでもわかりやすい。あるいは、SNSのフォロワー数で競合に負けているというデータを出すと、「勝つにはどうすればいいのか、いくらかかるのか」という反応を引き出すことができ、予算が付くこともある。

また、部長会で自分の上司に言ってもらうというのもポイントだ。成果を言ってもらうだけでなく、資料には次にやりたいことを書いておき、それも上司に言ってもらう。「報告書は次の企画書でもある」ということだ。

 

[ポイント]
  • 外部の調査会社のランキングなどをうまく活用し、成果をPR
  • 上司の口から言ってもらう
  • 次にやりたいこと(課題)をレポートに書いておく

また、安室氏は最近よくセミナーで講演したりメディアの記事に出たりしている。「本当は嫌いだけど」と言うが、媒体露出にはメリットがある。

[媒体露出のメリット]
  • 他社の優秀なマーケターとの人脈が得られるセミナーには他社の優秀なマーケターが集まっており、控え室は智恵の宝庫。普段は聞けないことも聞ける。
  • 社内の他部門の理解を得られるSUBARUは自動車業界では大きくないと言っても、社員は1万人規模だ。常に全員とコミュニケーションすることは不可能である。しかし、外部メディアに記事が出ることで、技術部門など普段は交流のない人からメールが来て相談されることもある。
  • スタートアップのプレゼンス向上SUBARUでは、トレジャーデータのサポートでDMPを構築している。トレジャーデータのようなスタートアップ企業は、まずは欧米からビジネスを始めるため、国内導入数はまだ多くない。しかし、「トレジャーデータを使ってこのような成果を出している」という記事が出れば、他にも使う企業が増えるだろうし、そうなればトレジャーデータ側も日本市場を重視して手厚いサポートをするようになるだろう。また、多くの企業で使えば、データ連係もスムーズになる。プレゼンス向上とは、そういう意味だ。

安室氏は、デジタルシフトを進める方法のまとめとして、日産のカルロス・ゴーン氏がリーダーの条件について次のように言っていることを引用した。

[リーダーの条件]
  • 結果を出せる人
  • 意見を言い人々とつながる能力
  • 新しいことを常に学ぶ姿勢

「リーダーとは、周囲からリーダーだと認識されないとなれないものだ」とも言っており、安室氏も「まったくその通り」と言う。マーケターも同様で、デジタルマーケティングは外部から何をやっているかわからないと言われることが多いが、自分がリーダーシップをとって社内を巻き込むことが重要だ。

デジタルシフトよりも大事なこと

しかし、「デジタルシフトよりも大事なことがある」と安室氏は言う。それは顧客視点に立った「サプライズ」だ。オンラインでもオフラインでも、大事なのはおもてなしで、期待を越えるサービスを提供しなければいけない。

そのためには、DMPでできることの範囲は広いので、「お客様の期待を越えるサービスはどうやったら提供できるか、千本ノックみたいにサプライズを考えて考えて考え続ける」のだという。それが最終的に、組織課題の解決にも繋がるだろうと考えている。

 

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