SUBARUに学ぶ顧客起点マーケティング2
長:分析する中で、浮き彫りになった顧客像から見えてきた仮説はありますか。
安室:はい。「離反してしまった元スバルユーザー(セグメント5)」や「スバルユーザーではないけれど、買う気がある人(セグメント7)」に注目し、もしこの方たちを全員取れたらシェアが倍になると考えました。
この方々に購入いただく上で「SUBARUが伝えるべき価値は何か」を導くために、スバル購入意向のある積極顧客とスバル購入意向のない消極顧客の差分を比較分析したところ「安全」というキーワードが見えてきました。
安室:また女性にセグメントを切って見ると、さらに「自動ブレーキ」や「事故を減らす」といったキーワードが強いことが明らかに。女性のお客様に購入していただくには、これらが重要な要素だということがわかりました。
長:まさにアイサイトという、SUBARUさんが元々持っている技術が持つポテンシャルを見いだせたわけですね。
安室:そうですね。このように実際のお客様やトップセールスの話を聞くことで得られた感覚と9segs®を用いて出したデータという、定性・定量調査の両方の結果をもとに説明したところ、役員が戦略変更を決定。それまでのSUBARUユーザーには少なかった女性の方に向けたコミュニケーションをとることになりました。
長:新規顧客を拡大しようとする際に、コミュニケーションを変えることで「既存顧客が離れてしまうリスクが大きいのでは」と危惧する企業も多いかと思います。今回のケースでは、従来のスバリストと呼ばれる方々が離れていくのではといった議論にはなりませんでしたか?
安室:もちろんありました。そこで重要なのがやはりデータです。先ほどお伝えした安全性はロイヤル化するために重要な要素でもあります。つまり安全性は新規顧客にも既存顧客にも有効なのです。安全性を訴求しても、既存顧客が抱くSUBARUのイメージが損なわれることはないと考えました。
安全訴求を基軸にしつつ「走りが気になる方にはデジタル施策で走りの訴求を」などコミュニケーションを出しわけています。
長:ターゲットを絞ることに対して不安を感じる方も多いですが、デジタルマーケティングなら「このお客様には、この価値を」といったWHO/WHATを同時にいくつか組み合わせながらコミュニケーションをとれますね。
WHO/WHATを明確にしたことで見られた変化
長:どのように施策を実行に移しているか教えていただけますか?
安室:施策を実施する前に、コンセプトテストを実施しています。9segs®では、どのセグメントにどのような訴求をすればよいかという無数に存在する組み合わせを、ツールを使って検証できるのでこの点も有効でしたね。誰にどのような訴求をすればどういった反応を得られるかがわかった状態で施策を実行できるので、施策の外しようがありません。過去に同じようなことをエクセルで行ったことがあるのですが、非常に大変だったと記憶しています。
長:そうですね、9segs®の分析データは非常に膨大で、切り口も無数にあるため、正しく戦略を導く正確な設計や運用力が求められます。効率的に正しく戦略を導き、施策につなげられたのですね。具体的に、施策ではどのようなことを変えられたのでしょうか?
安室:2023年4月以降、クリエイティブとメディアバイイングを改革しました。クリエイティブは、「3つのカメラでいのちを守るアイサイト」を基軸に見直しを実施しました。4月20日からオンエアを開始した新型インプレッサのCMでは、編集違いで3タイプ制作し、テストを実施しています。
安室:同年7月には、コミュニケーションスピードを上げるために、数年ぶりにタレントを起用したテレビCMを制作しました。撮影の香盤も見直し、デジタル用の素材も同時に撮影することで、メディアを横断した統合的なコミュニケーションプランを構築しています。
検索数をKPIに、線引きやエリア・局ごとの最適化に取り組みました。