スバル新型「WRX」がスゴイ 実用性も備えたスポーツ・セダンが400万円アンダー・・・東洋経済オンライン
□高い安全性、洗練された乗り味と内外装を加え、動力性能の不満もない
□実用性も備えたスポーツセダンが400万円アンダーという点も魅力
8月25日、恵比寿に新しくオープンした富士重工・新社屋にて、「WRX S4」と「WRX STI」がデビューした。先代までの「WRX」はインプレッサの派生車種だったが、今回からは「WRX」という独立したセダンとなった。発表に先んじて、7月31日、富士スピードウェイにて限られたジャーナリストに試乗の好機が与えられた。発表会の様子は関連記事にお譲りし、ここでは試乗した感想について詳報しよう。
■初代WRXは1992年に登場
インプレッションに入る前に、このモデルの成り立ちについて、少々、触れておく。
1992年に登場した初代「WRX」は、インプレッサをベースにラリーで勝つために生まれた歴史を持つ。1993年から世界ラリー選手権(WRC)に参戦し、3連覇を達成した。
3代目からはニュルブルクリンク24時間耐久レースに参戦。世界に名だたるレースを通じて、単に速さを競うだけではなく、信頼を高めることの重要性を学んだという。 その「WRX」が今回、インプレッサを離れて独立したセダンになった理由は、メインとするレガシィが大きくなり過ぎたことがある。その結果、日本市場専用のレヴォーグが登場し、ノッチバック・スタイルのインプレッサとの溝を埋めた。しかし、レヴォークはワゴン・ボディのみ。スバル・ファンのなかにはスポーツ・セダンを望む声が根強かった。
それゆえ、「WRX」をインプレッサから独立した車種として設定し、スポーツ・セダンの「WRX S4」と、よりスポーティな仕様の「WRX STI」の2車種を設定したのだ。
まず、販売の中核になるであろう「WRX S4」から紹介していこう。
アメリカ市場での好調を受けて、ボディサイズを拡大してきたスバルだけに、今回の「WRX S4」でもボディサイズが気になる。
4595×1795×1475㎜(全長×全幅×全高)と、先代の「インプレッサ WRX」と比べて全長が15㎜長いが、基本骨格を共有するワゴンの「レヴォーグ」と比較すると、全長が5mm短く、10㎜広い全幅を持つ。日本の車庫や道路の事情を鑑みて、1800㎜以下に抑えたのが嬉しいポイントだ。日本向けに考えられたサイズに収まるセダンとなると、がぜん、購入対象としての興味が湧いてくる。
もちろん、モータースポーツの世界で活躍した歴史を持つ「WRX」を名乗るからには走行性能に手抜きはない。さらに、アイサイトに代表される高い安全性、洗練された乗り味と内外装を加えている。
実際に試乗してみると、一般道での乗り味がしっかりと整えられており、動力性能の不満もない。搭載されるのは新開発の直噴ボクサー・ユニットで、13・2km/Lへと低燃費化を進めつつ、リニアトロニックとの組み合わせによってパワフルな加速をする。
■リアシートもゆったり
スバルの次世代を担うこのエンジンの特徴は、最高出力300ps/5600rpmを発揮すると同時に、幅広い領域で400Nmおの大トルクを発揮し、従来の水平対向エンジンのイメージだった低速トルクの不足を払拭している点だ。
サイドサポートが張り出したスポーティな形状の運転席だが、たっぷりとしていてかけ心地がよく、ホールド感が高い。ワゴンをベースとするためか、セダンとしては少々高めに座るが、アクセルやブレーキのペダルの位置は自然に足を伸ばしたところにある。ステアリング・ホイールにはチルト&テレスコピックが備えられており、体格の差に応じて調整できる。上級グレードの「2.0GT-Sアイサイト」では、シート地がアルカンターラと本革のコンビネーションとなる。
セダンゆえに、後部座席へのアクセルや荷室の使い勝手も気になる。身長171cmの筆者が座っても充分な頭上空間が確保されており、荷室には9インチのゴルフバックを4つ収納できる。つまり、大人4人でのロングツーリングにも耐える。
スバルの真骨頂たるボクサー・エンジンに火を入れて走りだす。アクセルを踏み込んですぐに、気持ちのよい加速をする。低速からトルクの厚みがあり、アクセル操作に対して素直な反応をし、自然な加速をしてくれる。そうした”当たり前”のことが、ちゃんとできるクルマというのは乗っていて気持ちがいい。
組み合わされるトランスミッションはCVTだが、従来のCVTで感じる違和感が払拭されている。スバル自慢の「SIドライブ」なる制御モードを持っており、そのなかで最もスポーティなS#モードを選ぶと、まるでスポーツカーのように8段変速ができる。段と段の間が接近したクロスレシオの設定なので、変速速度が早く、スポーティなフィーリングだ。
■自動で8段ステップ変速に切り替え
とはいえ、無段変速のCVTにあえて段をつけるのは、今どきどのスポーツ・セダンでも投入しており、珍しいわけではない。ユニークなのは燃費志向のIモードやスポーティ志向のSモードを選んだときだ。普段の走行では無段変速で燃費志向の運転モードだが、エンジン回転数が上がると、ドライバーがスポーティな加速をしたいと自動車側が判断し、自動で8段変速に切り替わって、CVTの違和感を抑える。
「WRX STI」と比較すれば、より日常向けのセダンとして開発された「S4」ではあるだけに、300psもの大出力を誰が楽しめるためにはこうした技術の採用は重要だ。同時に、アイサイトを全車に標準装着するなど、安全性も余念がない。
もう一台、「WRX」の最高峰スポーツ・モデルといえる「WRX STI」では、富士スピードウェイの本コースでの試乗がかなった。「STI」とは、スバルのレース部門を統括する子会社である「Subaru Tecnica International」の略である。独立したスポーツセダンとなった「WRX」の中でも、スバルのレース部門を代表するサブネームが与えられた 「WRX STI」が、スバルの遺伝子を色濃く受け継ぐスポーツ・モデルであるのは説明するまでもない。
大型リアスポイラー、BBS製18インチ・ホイール、フロントグリルやフェンダーに取り付けられたSTIのロゴなど、40代以上のクルマ好きにとっては”胸アツ”の外観である。室内を 見回すと、アルカンターラと本革のコンビネーションのシートに赤いアクセントが施されており、ヘッドレストには「STI」のロゴが刻印されているという念の入れようだ。
開発は「WRX S4」と同時だが、「WRX STI」の心臓部には新世代ボクサー・エンジンではなく、あえて熟成された従来型エンジンを搭載している。新型エンジンはスクエア型といって、環境性能と普段の扱いやすさを高めた設計なのに対して、従来エンジンはパワフルさを追求した高回転型スポーツ・エンジンだ。大量の空気を取り入れるための口が目立つボンネットの下には、最高出力227kW(308PS)/6400rpm、最大トルク422Nm/4400rpmを発揮する2Lターボ付き水平対向4気筒ユニットが潜んでいる。
「WRX STI」の開発の目的は、「パワーとコントロールの究極バランスを追求し、パワーを使いきって意のままに操る愉しさを実現すること」であり、「クルマが自分の手足の延長になったような一体感の実現」と、スバルは主張する。
■大人っぽい落ち着いたデザイン
運転席に滑りこむ。先代モデルではスポーティネスを狙いすぎて、少々子供っぽさも感じられただけに、新型がインテリアの質感を高めて大人のスポーツ・セダンらしい内装に進化したことは大歓迎だ。グリップ部にディンプル加工が施された握りやすいステアリング・ホイールは「WRX S4」と共通だが、サテンメッキの加飾とSTIのゴロは「WRX STI」のみだ。目に鮮やかなSTIカラー(ショッキング・ピンク!)のシフトヘッドには、6段MTのシフトゲートが刻まれている。
”本気のスポーツ・セダン”であることを証明すべく、試乗ステージには富士スピードウェイの本コースが選ばれた。エンジン特性を3段階で変化させることができるSIドライブのなかから、パワートレインの特性を最大に特性を引き出せる「S#モード」を選ぶ。シフトヘッドを1速に入れて、アクセルを踏み込む。モータースポーツの世界で磨きぬかれたパワートレインの加速の立ち上がりの鋭さについては語るまでもない。
加えて、コーナリング時の操舵に対する応答や姿勢変化がわかりやすく、ハイスピード・ドライビングでもあつかいやすい。コーナリング時にステアリング・ホイールを切ると、その分だけ素直に姿勢を変えていく素直な感覚は、スバルのスポーツ・セダンの伝統でもある。クルマを曲げる加速させるといったドライバーの意思をクルマに素直に伝える上に、反対に路面からの情報を豊かに伝えてくれるのも嬉しいポイント。高速での安定性だけではなく、低速域でのコントロールしやすさにもつながる。
少々、ウンチクを傾けると、一般的な乗用車ではステアリング・ホイールを切ってから実際に横Gが出るまでにわずかな遅れがあるのだが、「WRX STI」ではボディ剛性の向上とサスペンションの最適化により、操舵への応答性が高められているから素直に感じるのだ具体的には、シャシーの曲げ剛性で30%向上、ねじり剛性で40%も向上させており、操舵に対して横Gが発生するまでの遅れを小さくすることができたという。
前/倒立式ストラット、後/ダブルウィッシュボーンにビルシュタイン製ダンバーを組み合わせた足回りは、サーキット走行に耐えられるほどに硬められている。が、ただ突っ張っているわけではなく、しなやかに動いて路面からの入力をいなしている。従来比で重心高を10mm低めたことに加えて、コーナリング時に軸足となるリアタイヤのグリップを確保することで、コーナリングの限界Gの高さを実現した。平たく言えば、リアがしっかりしてぶれなければ、ドライバーは適正な荷重移動と操舵でクルマの姿勢を確実に変えていける。スピンに対する不安感もなく、ドライバーに対して安心感を与えてくれるクルマだ。
反対に、もしシャシーの剛性と足回りがしっかりしていなければ、路面や姿勢変化で生じたブレをドライバーが補正することになる。そうなると、クルマがぐらついて、運転していても恐怖感があるし、よほどの運転技術がないとクルマを思い通りにコントロールできない。「WRX STI」で富士スピードウェイを走った印象では、多少、オーバースピードでコーナーに侵入しても姿勢変化を感覚的につかみやすく、急激にコントロールを失うこともなかった。
水平対向エンジンと並んでスバルの十八番である4WDシステムは、前:後=41:59から前後を直結させた状態までトルク配分を自在に変化させて、走行状況やドライバーの望みに沿ってトルク配分をコントロールする優れものだ。
トルク感応型の機械式LSDが初期応答性を高め、電子制御式LSDによって「マルチモードDCCD」なる3種のモード切替を実現した。オールラウンドの「AUTO」のほか、滑りやすい路面を走るときには前後の作動制限トルクを高めに保つ「AUTO+」を選べば、路面をしっかりとらえるような制御を行う。スポーティ走行をしたければ、回頭性を重視してステアリング応答性を高めた「AUTO-」を選ぶといい。さらに、AWDのコントローラのレバーを前後に倒すと、締結力を段階的に調節するツウな設定もできる。ラリーファンなら、試してみたい機能だ。
0-100km/hを5秒フラットで加速するスペックは、フェラーリやランボルギーニといったスーパー・スポーツカーのスペックと比べたら見劣りはするが、一方で「WRX STI」のスポーティネスは誰もが容易に体感できることを強調すべきだ。富士スピードウェイの最終コーナーをうまく立ち上がると、パドックが始まる頃には180km/hを超えたあたりでリミッターにあたってしまう。このとき、スロットル・レスポンスの高さを実感できる。そのまま速度を保ち、第一コーナーの手前でブレーキを踏み込むと、強化されたブレンボ製ブレーキの効用と高いボディ剛性が相まって、前足にしっかりと荷重をかけながら、リニアなステアリング・フィールとともに鼻先を曲げていく。リアタイヤを軸にしつつ、前後の足がよく動いて路面を捕まえて、AWDシステムが前後のタイヤにトラクションを余すことなく伝える。コーナーの後半で路面に食いついて、アクセルを開ければ、再び、レスポンスと路面追従性の高さを味わうことができる。
■400万円アンダーという点も魅力
日本での販売価格は、「WRX S4」が全車にアイサイトを標準装備して310万~330万円。「WRX STI」がエントリーの「STI」が351万円、装備を充実させた「STI TypeS」が381万円。BMWジャパンのサイトを見ると、同価格帯では3シリーズには手が届かず、120iならなんとか手が届くが、Mスポーツ仕様は選べない。
「WRX」はスバル自身が「水平対向エンジンを積むスポーツ・クーペをベンチマークした」というだけあって、シャシーとパワートレインのバランスがよく、富士スピードウェイのような高速サーキットでのテストにも充分に耐える走行性能を持っている。エクステリアやインテリアに欲を言い出せばキリはないが、実用性も備えたスポーツ・セダンが400万円アンダーで買えるという事実は、世のクルマ好きにとって福音であろう。
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