【好評連載】スバル・レヴォーグ解体新書【繁浩太郎の言いたい放題コラム第7回】・・・繁浩太郎

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元ホンダのエンジニア繁 浩太郎(しげ こうたろう)さんの人気コラム。今回はレヴォーグです。ホンダのヒット商品を数多く生んできたエンジニアの繁さんには、他メーカーのクルマはどのように見えるのでしょうか。なるほどと思えるポイントがたくさん出てきます。では、早速どうぞ。

スバルのブランド戦略について

こんにちは、繁浩太郎です。レヴォーグの開発企画におけるコアは「日本向け」というキーワードにあります。

気が付けばレガシィは「アメリカ向け」のクルマになっていました。あのリーマンショックさえ無縁の出来事で、スバルのアメリカでの販売は伸び続けています。その核となったモデルの一つがレガシィ。そうなるとアメリカでの好調な販売を続けていくためにアメリカマーケットに合ったサイズやデザイン、スペックで進化した。それが今のレガシィです。

ボディサイズが大きくなり、国内での需要はダウン。北米ではアップという傾向

そんな中で、当然投資効率からいけばアメリカ仕様と同じクルマを日本でも販売するのが普通です。しかし今回大英断で、アメリカのレガシィと、国内のレガシィ=レヴォーグを分けた。このスバルの大英断は、どこからきているのでしょうか?

北米市場でのスバル好調の牽引役・レガシィ

アメリカマーケットにも見られるように、スバルの成長は著しく、その中で、「スバルとしてお客様にどんな価値を提供できるか? ということをもう一度真剣に話し合おう」と考えたそうです。その結果「その他大勢の自動車メーカーと同じように台数を伸ばして、車種も今までより増やして、新興国を攻め込むためにコンパクトカーも造ろうというようにはしない」と決めました。

つまり、台数を中心にした成長を目指すのではなく、「クルマの質で勝負する会社にしたい」と決めたのです。結果、箱毎の数は減っても、地域にあった質の良いクルマを造りたいと。

そしてスローガンを「際立とう」とし全社員の気持ちを一つにしました。

つまり、世間に向けたブランディングのみならず、社内向けのインナーブランディングから実行したということになります。

経営者は会社を大きくする=販売台数を増やしたいと思うのが普通で、またそれを求められます。しかも近年、安全・環境技術開発投資などにより、経営的には厳しくなっていく中で効率を考える時に「量よりも質」という方針をスバルは打ち出しました。この決断、判断により、スバルブランドはより強固なものになっていくと考えます。

歴代レガシィと手前レヴォーグ

スバルのデザインについて

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レヴォーグのデザインはレガシィと比べても相当進化しました。アメリカ指向のレガシィのサイズ、スタイルから変わって、まず日本の市場に向けたサイズになりました。スタイルはかなり意欲的に隅々まで良く考えられた綿密なデザインとなっています。私はかねてから燃費や走行性能も大切ですが、クルマの商品魅力の殆どはデザインにあると考えています。

クルマのデザインは「クルマのコンセプト表現」などと良く言われ、これはクルマの性格とデザインとがマッチしている方が解りやすくユーザーに受け入れてもらいやすいということです。今回のレヴォーグはまさにこれに当てはまり、しかも「時代をリードする良いデザイン」が付加されて、コアなスバリストだけでなく、幅広いユーザーに支持されるものと考えます。

このあたりを中心に、今回のレヴォーグのデザインを解説しますと、まず顔。

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写真を並べてみると、レガシィはボンネットに高さがあって逆台形のグリル、切れ長のヘッドライト、すんなりとした顎。つまり顔の骨格、造作に大きな特徴はなく人並みです。

レヴォーグのフロントマスク:グリル、バンパーなどが低く抑えられている

レガシィのフロントマスク:高さのあるボンネットと逆台形のグリルが特徴

 一方、レヴォーグはそれぞれの造作にきつい個性はありませんが、骨格として随分精悍になっています。つまり西欧人並に顔の骨格がはっきりとし、小顔になっています。結果、眼とグリルとバンパーを含めて低く構えて肉食動物が獲物を狙うような鋭さを感じます。シャープでスポーティな印象です。

そこにボンネットのエアインテークがスバルらしさとして加わり、街中でも「スバル・レヴォーグ」として認識されやすくなったと思います。初代、レガシィがそうだったなぁと思い出してしまいました。

ボンネットエアバルジはもはやスバルのアイコン

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まとめると、レヴォーグの顔はスバルらしさもありながら、骨格から変えて精悍なカッコいい顔になったということです。

次に、サイドビューで見てみましょう。

レヴォーグ サイドビュー

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サイドビューで見ると、レヴォーグやはり全長は短くなって全高が低くなっているのがわかりますね。レヴォーグはリヤタイヤあたりから、ボディに別のラインが入ってしかも後ろへ行くに従って切れ上がっている。ルーフはクーペの様に降りてきて、リヤウインドも寝ていてリヤのマス感(塊感)が小さく前へ動こうとする躍動感を感じます。

この小股の切れ上がったボディとスマートな薄めのキャビンとルーフの流れで、非常にエモーショナルなデザインになっています。またサイドシルが大きく出っ張っており、抑えたドアセクション、ボディとウインドウの面積比率、さらにタイヤの大きさ感、さらにフロントウインドウへのルーフの被り方、細部まで破綻無く良く考えられています。

また、テールゲートにはテールライト間を結ぶメッキモールとスポイラーがボディデザイン面にあって、凹凸のある堀の深い造作になっています。結果、スポーツクーペのお尻の様に引き締まって見えます。

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全て、完璧に近く精悍でエモーショナルなデザインになっていますね。

もう少し言うと、小気味良くスポーティに走るレヴォーグの性格を素直に表現した、つまり「デザインはコンセプト表現」ということが良い形でできている見本のように思いました。

運動性能について

レヴォーグ1.6GT-Sは、走り出すとこのデザインがこのクルマを表現しているとわかります。精悍な走りです。1.6Lと2.0Lとそれぞれグレード違いがありますが、動力性能は1.6GTで十分で、何より2.0Lも含めてステアフィールが気持ち良いです。

ステアフィールをみれば、シャシーセッティングだけではなく前後の荷重バランス、剛性、4WD制御等、全ての結果が出てきますので作り込まれているかどうかが一番良くわかります。だから私はステアフィールを重視しています。また旋回ブレーキ性能も良く、ホントに良く作り込まれている感じがしました。

さらに、アクセルを踏んで、ハンドルを切って、ブレーキを踏んでなどの一連の操作において、クルマのサイズ感と走らせた時のサイズ感がマッチしています。

これは開発時に相当テスト車で確認し作り込んでいった結果だと思います。

それとシートですが、レガシィは人を優しく包むような感じだったのに対して、レヴォーグはヨーロッパ的なしっかりと包み込むシートになっていて、精悍な走りにビッタリです。

シートのホールド感、ステアフィールの良さ。走りに関してかなり作り込まれた感が分かる

さらにリニアトロニックCVTですが、これはATと同じ様に段数があるように変速します。 1.6Lは 6速、 2.0Lは 8速になっています。大昔は「ATショック」等と言って、ATが変速する際のショックをいかに抑えるかが大変で、無段変速を目指して、と良く思いましたが、ここまでくるとかえってCVT制御が良くできているせいか段数を付けた方が走り感が良いですね。

しかもこのリニアトロニックはチェーン・タイプを使っていて、リニアトロニック(CVT)全体が小型軽量化されています。さらに従来より一段と効率が良くなり、計算上は4ATと比較すると10%、5ATと比べると6%から8%、それぞれ燃費が向上しているということです。

アイサイトの進化についてです。自動ブレーキ技術自体はご存知のようにまだ完璧な技術ではありませんが、アイサイトは今回も随分進化し業界をリードしています。そんな中で今回も価格を10万円とかなり買いやすくしました。これは、少しでも多くのユーザーに安全技術を装備してもらい、事故を防いでいきたいというスバルの願いの賜物と思います。

レヴォーグは、いわゆるレガシィのフルモデルチェンジでなく、「クーペワゴン」のような新ジャンルのようにも思います。というのもワゴンの使い勝手、クーペのスタイリッシュさ、さらに燃費の良さ、熟成された走り、ちょうど良いサイズ。

これって考えてみるとトヨタ・アクアの販売好調の図式と近いかなと思いました。本来は実用ハッチバックなのにルーフが低くエモーショナルなスタイル「クーペハッチ」で燃費も良く、まさに「新しいクルマ」という感じです。レヴォーグも同じように、「クーペワゴン」というこれからの「新しいクルマ」という気がしました。

では、また次回。

こちらの映像では河口まなぶさんの試乗レポートをお送りします。

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