新型レヴォーグは購入してもいいのか?
2020年8月20日、全国のスバルディーラーで新型レヴォーグの先行予約が開始された。このタイミングで各販売店では新型の資料配布を開始。スバル公式サイトでも新型の紹介サイトがオープンしている。
レヴォーグといえば、大ヒット車であり日本におけるワゴンブームの牽引役であったレガシィの実質的な後継車として2014年4月に発表(発売は6月)。それから約6年半で、2代目となる新型の登場となる(新型レヴォーグの正式発表は2020年10月15日、発売は11月予定)。
思い起こせば初代(現行型)レヴォーグ(現在はオーダーストップで在庫販売のみ)が登場してから約6年半、日本の新車市場も大きく状況が変わっている。ワゴン車のライバルも変わった。それでもレヴォーグは多くのファンに愛され続けてきたわけだが、ではそのバトンを引き継ぐ新型の「でき」はどうか。さらなるヒットは望めるのか。
スバル渾身のフルモデルチェンジの成果やいかに。
辛口批評で名高いモータージャーナリストの渡辺陽一郎氏に、新型レヴォーグを徹底的にチェックしていただいた。
文:渡辺陽一郎
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■かつて大ブームを巻き起こした「ワゴン」
近年の車種構成を振り返ると、ワゴン(ステーションワゴン)は車種数を大幅に減らした。以前はトヨタならマークIIクオリス&ブリット/アベンシス/カルディナ、日産はステージア/アベニール/ウイングロード、ホンダはアコードツアラー、三菱ランサーワゴンなどが用意されたが、今ではすべて廃止された。ワゴンの需要は、日本では車内を大幅に広げたミニバンに押され、北米などの海外ではSUVに奪われている。その結果、各メーカーは「ワゴン」カテゴリーの車種数を激減させている。
ワゴンというカテゴリーの魅力は健在だ。
新型(2代目)レヴォーグ(プロトタイプ)。初代(現行型)が登場した2014年からずっと、日本のワゴン市場を牽引してきた
基本形状はセダンのルーフを後方まで伸ばしたものだから、荷室高が低く背の高い荷物は積みにくい。その代わり重心は低く、セダンに近い走行安定性を発揮する。高重心のミニバンやSUVに比べると、危険を避ける性能も高い。低重心だから左右に振られにくく、乗り心地も向上させやすい。
つまりセダンの「安心と快適」に、便利な荷室の機能とアクティブな外観を加えたのがワゴンだ。そのために日常的に長距離の高速走行が多い欧州では、今でもワゴンの人気が高い。欧州車にもワゴンが豊富に用意される。
このワゴンの性格は、走行安定性を含めた安全性と、運転の楽しさを重視するスバルの考え方に合う。そこでスバルは古くからワゴンに力を入れ、1989年以降はレガシィツーリングワゴンが定番商品になった。2014年には後継車種の従来型レヴォーグを発売した。
従来型レヴォーグは、全長が4690mm、全幅は1780mmに収まってマツダ6ワゴンよりも小さい。走行安定性、狭い道の取りまわし性、室内空間の広さをバランス良く両立させた。
新型レヴォーグのリアショット。先代と比べるとひと回り大きくなっているが、取り回しの感覚や見た目は「大きくなったな」というイメージはない
外観もワゴンらしく伸びやかで内装は上質だ。スバル独自の水平対向4気筒エンジンと4WDによって走行性能も優れ、ワゴンの車種数が減ったこともあり、レヴォーグに需要が集まった。レガシィツーリングワゴンからの乗り替えもあり、先代型は2015年には、1か月平均で約2500台を登録している。モデル末期の2019年も1か月平均で1000台以上が登録され、ワゴン需要を支えた。
そして2020年8月20日に、新型レヴォーグの先行予約が開始されたのでプロトタイプを試乗した。以下、新型レヴォーグ(プロトタイプ)の特徴を紹介しつつ、従来型(先代)からの進化のポイントや、他のワゴン車との比較、スバルのクルマ造りの変化についてお知らせしたい。
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■全長が65mm、全幅が15mm拡大したが最小回転半径は変わらず
新型の性格は基本的に従来型を踏襲している。ボディサイズは全長が4755mm、全幅は1795mmだ。全長は65mm伸びたが、ボディが大きくなった印象はさほどない。
外観に躍動感を演出するため、サイドウインドウの下端は後ろに向けて大きめに持ち上げた。従って斜め後方の視界は従来型よりも悪い。最小回転半径は従来型と同じだが5.5mで少し大回りだから、購入時には車庫入れや縦列駐車を確かめたい。それでも新型レヴォーグは、ワゴンの中では運転しやすい部類に入る。
操縦安定性や(走行中の)室内の快適性は各段に向上。あらゆるレベルの運転者が、先代から乗り換えると「おお、進化したな…」とすぐ気づくレベル
車内はミドルサイズワゴンでは十分に広い。身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ2つ半だ。4名乗車にも適する。シートの座り心地も向上した。少し硬めだがボリューム感を伴う。前席は背中から大腿部を確実に支えるため、峠道などを走っても着座姿勢が乱れにくい。
エンジンは新開発された直列4気筒1.8Lターボのみを搭載する。従来型の1.6Lターボは、自然吸気のノーマルエンジンに換算すると、2.5L相当の性能だった。実用的には十分だが、レヴォーグのスポーティな性格を考えると少しパワー不足だった。その点で新型の1.8Lターボは、最高出力が177馬力(5200~5600回転)、最大トルクは30.6kg-m(1600~3600回転)で3Lに相当する。
エンジンは(現時点で発表されている限りでは)新開発1.8Lターボの一種類のみ。従来の1.6Lターボエンジンより排気量も馬力もトルクもアップしていて、さらに燃費(WLTCモード)が向上している
ただし加速感は好みが分かれる。最大トルクの発生領域では、余裕のある加速を行えるが、ターボの特性も相応に強い。アクセルペダルを25%程度一定に踏みながら加速すると、ドライバーが意図した以上に速度を高めようとする。開発者に尋ねると「ターボらしさを意図的に演出した面もある」と返答された。
従来型には2Lターボもあり、3.8L並みの性能を得ていた。かなりパワフルだったので、2Lターボのユーザーが1.8Lターボの新型に乗り替えると、物足りない気分になるかも知れない。エンジンノイズは従来型に比べると洗練された。音質も改善され、回転感覚が滑らかだ。
■新型プラットフォームがさらに進化
ステアリングの反応は、従来型よりも正確性を高めた。ステアリングホイールを回し始める段階から、鈍さを感じさせず車両の向きを正確に変える。
新しい電動パワーステアリングの効果もあるが、この設定はプラットフォームなどを刷新して走行安定性を高めたから可能になった。従来型に同じ操舵感を施すと、挙動変化が唐突になっただろう。新型ではプラットフォームなどの刷新で、挙動変化が滑らかになり、機敏な方向に変更してもバランスが取れている。
カーブを曲がる時の印象も変わった。従来型は安定性を確保するために後輪の接地性を高め、その代わり状況によっては旋回軌跡を拡大させやすかった。新型はそこを改善して前輪が踏ん張り、操舵角に応じて正確に回り込む。
後輪の接地性も高いから常に安心できて、なおかつカーブを曲がっている時に意図的にアクセルペダルを戻すと、車両を内側へ向けることも可能だ。適度な曲がりやすさと高い安定性を両立させ、ドライバーが積極的に操る領域も拡大した。
縦に大きいセンターコンソールの大画面モニターが目をひく(11.6インチインフォメーションディスプレイ)
情報パネルは豊富かつ便利。エアコンの温度設定はアナログボタンなのも地味だけど使い勝手よし
ちなみに新しいプラットフォームを使ったインプレッサが登場したのは2016年だから、今では4年を経過する。解析も進んで特性が把握され、新型ではフルインナーフレーム構造なども採用してボディ剛性も高めた。その結果、操る楽しさを安心して味わえる。
ボディ剛性が高まって足まわりが正確に伸縮すると、乗り心地も快適になる。全般的に少し硬いが、大きめの段差を乗り越えた時の突き上げ感を抑えた。
最上級グレードのSTIスポーツには、ドライブモードセレクトが採用される。コンフォート/ノーマル/スポーツ/スポーツ+が設定され、電子制御式ショックアブソーバーの減衰力、電動パワーステアリングの操舵感、アイサイトの反応などを3段階に調節する。4WDの設定は2段階だ。
カーブを曲がったり車線変更する時は、コンフォートモードでも自動的に硬めになる
どのモードでも最良の安定性が得られる。市街地でコンフォートモードを選ぶと、乗り心地が柔軟になってパワーステアリングも軽くなる。
開発者は「夫婦でクルマを選ばれる時、ダンナさんがレヴォーグを希望しても、パワーステアリングが重かったりすると奥様から敬遠されてしまう。そこでコンフォートモードでは、軽い操作感で快適に運転できるようにした」と説明した。
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■ついにアイサイトに「ハンズオフ」が設定
新しい機能となるアイサイトXも試した。アイサイトの運転支援機能を進化させたものだ。渋滞時のハンズオフアシストが採用され、時速50km以下で追従走行する時は、ステアリングホイールから手を離しても運転支援機能が持続する。ペダル操作を含めて、ドライバーの操作が大幅に軽減される。停止後の再発進も自動的に行う。制御はスムーズで不満はない。
先進安全装備の代名詞的な存在となった「アイサイト」が大幅進化。高速道路走行時のみだがハンズオフ昨日も設定された
渋滞時以外では、ステアリングホイールの保持が条件だが、アクティブレーンチェンジアシストも採用した。方向指示機を作動させると、センサーが斜め後方の後続車がいないことを確認して、パワーステアリングに車線変更を支援する操舵力が加わる。
カーブや料金所の手前で自動的に減速する機能も備わる。
従来型では先行車が不在になると、カーブの手前でも設定速度まで速度を上昇させた。この時はドライバーがブレーキを踏むなどの操作をする必要が生じるが、新型は自動的に減速する。
なおアイサイトXの運転支援機能は、自動運転ではない。渋滞時に手離しで走行する時も、ドライバーは前方を注視する必要がある。そこでアイサイトX装着車には、ドライバーの状態を検知するドライバーモニタリングシステムを採用した。よそ見をしているとドライバーに警報が行われ、それでも無反応な時は緊急事態が発生したと判断する。自動的に速度が下がり、ハザードランプを作動させ、ホーンも断続的に鳴らす。最終的に停車させて電動パーキングブレーキも作動させる。
新型にはコネクティッドサービス(通信機能)も用意され、事故や緊急時には、オペレーターを介して消防や警察に通報することも可能だ。今のところアイサイトXの緊急事態時に自動通報する機能はないが、 事故時も含めてドライバーモニタリングシステムの映像と併せて送信可能にすれば、安全性は一層高まる。
このほかGT-H以上にはハンズフリーの電動リヤゲートも装着した。肘をリヤゲートのエンブレムに近づけると開く仕組みだ。ハンズフリーはリヤゲートの下側で片足を出し入れするタイプが一般的だが、開発者は「路面が滑りやすい場合など、お客様が荷物を両手で持ちながら片足で立つと、転ぶ心配がある。そこで肘を近づける方式にした」と説明した。
■狙い目はアイサイトXつきの「EX」(ベースグレード+アイサイトXを含む高度運転支援システムを標準装備)348万7000円
今は国産ワゴンの車種数が激減して、マツダ6ワゴン、カローラツーリング&フィールダー、ホンダシャトル、プリウスα程度に限られる。これらの中で、運転支援機能と安全装備は新型レヴォーグが最も新しい。走行性能も優れている。
輸入車ではアウディA4アバントが先行車に追従する渋滞時の運転支援機能を備えるが、これは従来のアイサイトツーリングアシストに近い。BMW3シリーズツーリングには、高速道路上で手離し運転が可能な運転支援機能も採用される。
それでもアウディA4アバント、BMW3シリーズツーリング、メルセデスベンツCクラスワゴンの売れ筋価格帯は550~700万円だ。新型レヴォーグは価格が大幅に安く、輸入ワゴンに比べて買い得感が強い。国産ワゴンとしては先進的で、選ぶ価値を高めた。
走行性能、快適性、安全性能と、全域において大幅に進化した新型レヴォーグ。8/20~10/14に成約すると、カタログギフトのプレゼントがもらえるキャンペーン実施中
新型レヴォーグの価格は、最も安いGTが310万2000円で、中級のGT-Hにはリヤゲートの電動機能、助手席の電動調節機能などが加わり、22万円高い332万2000円だ。上級のSTIスポーツは、ドライブモードセレクト、専用の本革シートなどが採用されて、GT-Hよりも38万5000円高い370万7000円になる。
そして末尾にEXの付くグレードは、アイサイトXと、11.6インチセンターインフォメーションディスプレイ+ドライバーモニタリングシステム+コネクティッドサービスなどのセットオプション(27万5000円)が加わり、38万5000円の価格上昇だ。つまりアイサイトXの正味価格は11万円に収まる。このEXは38万5000円の上乗せになるものの、機能満載で買い得だから積極的に選びたい。
以上をトータルで考えると、最も推奨度の高いグレードは、GT・EXの348万円7000円になる。この価格帯にはハリアー4WD・2.0G(361万円)、CX-5・4WD・XDプロアクティブ(340万4500円)、ミニバンではセレナ2WD・e-POWERハイウェイスターV(358万2700円)、などが用意される。売れ筋車種の上限価格帯といえるだろう。
スバル レヴォーグ グレード | 価格 |
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GT(ベースグレード) | 310万2000円 |
GT-H(中間グレード) | 332万2000円 |
GT EX(ベースグレード+アイサイトXを含む高度運転支援システムを標準装備) | 348万7000円 |
GT-H EX(中間グレード+アイサイトXを含む高度運転支援システムを標準装備) | 370万7000円 |
STI Sport(上級グレード) | 370万7000円 |
STI Sport EX(上級グレード+アイサイトXを含む高度運転支援システムを標準装備) | 409万2000円 |
■SUBARUの「頑固さ」から変わってきている
新型レヴォーグの従来型と違う特徴は、少しターボの特性を感じさせる加速感、正確性を高めた操舵感、サイドウインドウの下端を大きめに後ろへ持ち上げたボディスタイル、それと進化したアイサイトだ。従来は安全性と扱いやすさを徹底的に重視したスバルだが、最近はスポーティな方向に発展している。
クルマとしての楽しさが強まった代わりに、従来の視界などに対する頑固なこだわりは少し薄れた。良くも悪くも、スバルのクルマ造りが変わり始めている。
文:渡辺陽一郎