吉永社長に訊く:絶対に米国中心で突き進むSUBARU

最終更新日:2017/09/02 公開日:

「今は米国を中心にブランド力を磨くことを大切にしたい」(吉永社長)

 SUBARU(スバル)が主力の米国で快走を続けている。主力のスポーツ多目的車(SUV)「フォレスター」や新型主力車「インプレッサ」が好調で7月まで68カ月連続で前年の販売実績を上回っている。ただ米国は自動車需要の減速が鮮明になり、メーカー間の販売競争はますます激しくなる。事業環境が変化する中、世界販売の6割を占める主戦場でブランド力をさらに高めていけるのか。正念場を迎えている。

スバルの米国販売会社が公表した7月の販売台数は5万5703台と同月として過去最高を記録した。主力SUV「フォレスター」や「アウトバック」に加え、5年ぶりに全面改良し米国では1月から本格的な販売を始めた新型インプレッサがけん引している。

けん引する新型「インプレッサ」

新型インプレッサは新車台「スバルグローバルプラットフォーム」を採用した第一弾モデルで走行性能と安全性能を両方高めた。

「主戦場の米国で確実に成功し、日本でも受け入れられるモデルを目指した」(開発責任者の阿部一博氏)。その狙い通りインプレッサは米国でも受け入れられ、7月は前年同月比5割増の7777台と大幅な伸びを示し、販売増に貢献した。

夏以降はインプレッサの兄弟車にあたる新型SUV「クロストレック(日本名XV)」の販売が本格化してくるため、さらなる販売増が期待できる。

新型SUV「クロストレック(日本名XV)」

17年の米国販売10年連続前年超えも視野に入った。商品力と販売、マーケティング戦略がうまくかみ合い、全米にスバルブランドが浸透しつつある現状が数字に表れている。

ただ懸念もある。米国の自動車需要は今年に入り7カ月連続で減少し、需要のピークアウトが鮮明になっているからだ。スバルは米国市場の頭打ちに反して好調を維持しているが、競合も米国で人気を集めるSUVやピックアップトラックなどの投入を強化してきており、今後スバルが得意とするSUV領域での販売競争は避けられない。

車の値引きに相当する販売奨励金も各社積み増しており、スバルは業界の3分の1に抑えられているものの例年比では増加。17年度の利益を圧迫する要因の一つになっている。

在庫過剰、懸念も

当然、スバルも米国事業を楽観視しているわけではない。特にこれまで以上に注意深くみているのがスバル車の在庫状況だ。スバル車はここ数年の急激な販売拡大で在庫が極端に少ない状況が続いた。中古車の下取り価格が高くスバル車の需要を喚起し、高い利益率を生む好循環を生んでいる。

今販売が好調とはいえ車を作りすぎて供給過剰になれば在庫が増え、ディーラーが価格を下げてでも売りさばくようになる。スバル車の価値が下がり、従来のビジネスモデルが崩れる恐れがある。

実際、昨年米国でセダン「レガシィ」の販売が鈍化し、在庫が計画より5000台ほど増えた際に生産調整をした。「極論を言えば販売台数は未達でかまわない。在庫が膨らみ車の価値が下がってしまうほうが大問題だ」と吉永泰之社長は強調する。

スバルは今後も主戦場の米国を重視した事業戦略を進める。世界販売の6割を占める米国への依存度にリスクがないとはいえないが、かつて工場建設など本格進出を検討した世界最大市場の中国は車の供給量が過剰で価格競争が激しい状況が続いている。


「販売が伸びたとはいえ世界販売は100万台で、スバルは台数の規模拡大を追っているメーカーでもない。今は米国を中心にブランド力を磨くことを大切にしたい」(吉永社長)。

カギ握る「アセント」

 そひて18年に米国で新たに投入するのが大型SUV「ASCENT(アセント)」だ。3列シート、7人乗りで「アウトバック」、「フォレスター」を上回るスバルのラインアップの中で最大サイズの車種になる。

大型SUV「ASCENT(アセント)」

アセントのターゲットは子育て層だ。「フォレスターやアウトバックのユーザーに家族が増え、他のスバル車への乗り換えを検討する際に現行ラインアップでは対応できない課題があった」(岡田稔明取締役専務執行役員)。アセントの投入でこれまで取り込みきれなかった新たな顧客層を獲得し、北米でのシェア拡大を狙う。

アセントの前評判は上々なようで「現地ディーラーの(アセント販売に向けた)モチベーションはとても高い」(スバル幹部)。

一方、アセントに部品を供給する予定のあるサプライヤーは「北米のみで販売する車にしては強気な販売計画だと感じた」とも指摘する。

“米国一本足”も強固になればそう簡単に倒れない。アセントで新たな顧客層をつかみ米国事業を盤石にしてブランド力を高められるか。アセントはスバルがもう一段ステップアップするための一つのカギをにぎっている。

日刊工業新聞第一産業部・下氏香菜子



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